イネの光合成における活性酸素種の生成速度をモデル化 生育中の光の強さが活性酸素種の生成速度を変えることを発見


農業生産学科研究成果
UPDATE 2023-08-31

摂南大学(学長:荻田喜代一)農学部・農業生産学科の高木大輔助教と農業生産学科4年生の谷沙耶さんの研究グループは、イネを用いた研究によって光合成機能を低下させる原因となる活性酸素種(Reactive Oxygen Species; ROS)の生成速度について、擬一次反応式をモデルとして定量的に評価できるオリジナルのパラメータを考案しました。
さらに当該研究の中では、考案したパラメータを用いることで、ROSの見かけの生成速度がイネの生育光条件に依存して変化することを明らかにしました。
今後は、当該解析手法を利用することで、作物においてROS生成活性を抑えるために必要となる分子機構の解明が期待されます。

 

【本件のポイント】

● イネ(品種ノトヒカリ)を3条件の光強度で栽培し、ROSによって引き起こされる光合成の機能障害「光傷害」の発生速度の酸素依存性を定量的に解析

● 光傷害の発生による光合成タンパク質(光化学系I)の経時的な活性変化を、擬一次反応のモデル式で近似

● モデル式を用いた解析の結果、ROSは光合成電子伝達反応からの電子の漏れで生成することを発見。さらにその電子の漏れの見かけの速度が、生育光強度が高くなるにつれて、抑えられる方向に制御されることを発見

● 様々な植物種における光傷害の発生速度を解析し、擬一次反応へのモデル式への当てはめを行うことによって、ROS傷害耐性を強化するために必要となる遺伝資源の選抜が可能となることを提示

 

陸上植物は、光エネルギーを利用することで二酸化炭素を固定する反応である光合成を駆動させます。しかしながら、光は同時に光合成の場である葉緑体のチラコイド膜上において活性酸素種(Reactive Oxygen Species; ROS)を生成させる危険性を内包しており、葉緑体内部で生成した活性酸素は光合成に必要なタンパク質である光化学系Iに酸化的な傷害を与えます。
このため、光合成駆動中にROSの生成とその傷害を防ぐことは植物の光合成機能を維持するうえで必要不可欠ですが、どのような速度論的挙動をもって光合成におけるROSの生成とその傷害が起こるかどうかは、明らかにされていませんでした。

今回は、イネの生葉を用いてROSによる光化学系Iへの傷害が、外部O2濃度に応じてどのような速度で発生するかを解析し、さらに生育期間中に植物が浴びる光の強さに着目して、光合成におけるROSの生成速度が生育中の光強度によってイネで変化するかどうかを用いて調べました。
その結果、ROSによる傷害は外部のO2濃度に直線的に応答して促進されることを発見し、光合成におけるROSは光合成電子伝達鎖からのエネルギーの漏れで発生する可能性を示しました。さらに、生育期間における光強度が強くなるにつれてROSの生成と、それによる光合成機能の低下が抑制されることを明らかにしました。
なお、本研究の成果は、植物生理学に関する国際学術誌「Physiologia Plantarum」に掲載されました。

今回は、イネの生葉を用いてROSによる光化学系Iへの傷害が、外部O2濃度に応じてどのような速度で発生するかを解析し、さらに生育期間中に植物が浴びる光の強さに着目して、光合成におけるROSの見かけの生成速度が生育中の光強度によってイネで変化するかどうかを用いて調べました。その結果、ROSによる傷害は外部のO2濃度に直線的に応答して促進されることを発見し、光合成におけるROSは光合成電子伝達鎖からのエネルギーの漏れで発生する可能性を示しました。さらに、生育期間における光強度が強くなるにつれてROSの生成と、それによる光合成機能の低下が抑制されることを明らかにしました。
なお、本研究の成果は、植物生理学に関する国際学術誌「Physiologia Plantarum」に掲載されました。

【論文情報】
タイトル:Impact of growth light environment on oxygen sensitivity in rice: Pseudo-first-order response of photosystem I photoinhibition to O2 partial pressure
DOI: 10.1111/ppl.14009

 

活性酸素種による光合成機能の低下をモデル化することによって、植物は活性酸素種の見かけの生成速度を生育光環境に依存して変化させ、光傷害への耐性を制御することを発見した。